2025.05.23 14:20展示場

【和の器】伊万里焼・色絵花鳥猫文葉形皿──猫と牡丹と蝶が語る「長寿と富貴」の物語

日本の美意識が詰まった「和の器」は、ただ食を盛るだけではなく、使う人の心に物語を語りかけてくれます。今回ご紹介するのは、そんな物語性をたたえた一品──伊万里焼の色絵花鳥猫文葉形皿です。

風に舞う葉をかたどった、優美な変形皿

器のかたちは、まるで風の中に舞う葉の一片のよう。角張らず、波打つように柔らかく変形した輪郭は、眺めるだけで穏やかな気持ちにさせてくれます。手に取ると、しっとりとした磁器の質感と、その絶妙なバランスに感嘆することでしょう。

色絵で描かれた花鳥と、さりげない猫の存在感

見込みには華やかな色絵が広がり、中心には咲き誇る牡丹が描かれています。その周囲には金彩の雲がたなびき、一羽の鳥が優雅に舞い降りてきたような構図。よく見ると、ひっそりと佇む猫の姿も──。そのふっくらとした佇まいは、ただの装飾にとどまらず、静けさと神秘性を帯びた存在感を放っています。

猫が器に描かれる意味とは？

猫は日本では古くから愛されてきた動物です。平安時代にはすでに「枕草子」にその姿が登場しており、貴族たちに愛玩動物として飼われていた記録も残っています。一方で、猫は神秘的な力を持つ存在とも考えられ、時には怪談や伝承の中で超自然的な存在として語られることもありました。

そのような背景からか、日本の器に猫の文様が描かれることは意外と少ないのですが、文様の宝庫・古伊万里では、その希少な猫の姿を見つけることができます。

猫と蝶と牡丹──「耄耋（ぼうてつ）」の文様

この器に描かれた「猫・蝶・牡丹」の取り合わせには、実は中国由来の深い意味が込められています。

猫（マオ）は「耄（70歳）」に通じ、蝶（ティエ）は「耋（80歳）」を表す言葉とされます。このことから、猫と蝶の組み合わせは「耄耋（ぼうてつ）」──すなわち「高齢の祝福」の意味を持つようになりました。牡丹は古来より「富貴」の象徴とされており、この文様構成は「長寿と富貴」をあらわす吉祥の文様なのです。

江戸時代の人々は、このような象徴の意味を理解したうえで器を楽しんでいたことでしょう。まさに、器を通じて人生の豊かさや願いを映し出していたのです。

蘭学者・杉田玄白と「耄耋」の語

この「耄耋（ぼうてつ）」という言葉は、現代の私たちにはあまり馴染みがないかもしれません。しかし、蘭学者・杉田玄白は84歳のときに著した随筆『耄耋独語』の中で、自身の老いとその中で感じたことを静かに語っています。こうした表現からも、かつての人々が「老い」を敬い、深い意味を込めて日常に取り入れていたことがわかります。